名古屋の中心地から東へ約10kmほどのところに東名高速のインターチェンジがあります。
このあたりは今から数十年前には、ゆるやかな小山だけで人家のいえば農家らしきものがちらほら建っているだけで何もないところでした。
高度経済成長の波に乗り、名古屋市内の住宅開発もあっという間に、この地をのみほしてしまい、今は空いている土地を探す方が難しいほどです。
その一角にこの住宅が建っています。
敷地は廻りの山々を切り土してできているため、道路より2mほど高いところに位置しています。
家族は3人です。ご家族の希望で家相を考慮に入れ、中心になる和室を8畳を6畳がつながった書院風の数寄屋造りに計画しました。その廻りを1間の広縁が廻って、より一層、和室の空間を広く見せています。
居間になる部屋は東南の位置にあり、食堂、台所が北へ続く設計となり、それぞれに朝日を浴びることができます。
建主の希望で、その居間は民家の気配が感じられるよう小屋裏が化粧で現しになっています。それぞれ古色をつけ、時代のついた雰囲気を求めてみました。
最近では情報化社会の波にのまれ、流されている家族が多いなか、こちらのご家族は常にご主人を中心に、変えてはならない文化と変革すべき文化を問い直し、求めていいらっしゃいます。ご家族が統一した価値観を求めて生活しておられるのにはいつも感心させられます。家具、調度のどの一つをとっても、必要な古き物を大切にし、住まいの一部として設えをしておられるご家族が、私の求めた空間をより一層価値の高いものにしてくれています。
住宅建築1989年8月号掲載
撮影:相原 功