”かた”から”かたち”へ
私は日本建築の設計活動を通じて多くの出会いを得ることができました。
この出会いは、その後の私たちの事務所にとって最も大切な環境をつくり上げる礎へと発展してきました。
そのときに出会った、現在日本の第一線で活躍中の棟梁、左官の親方、銘木店のご主人などの方々が
今までの私を支えてくださり、日本建築の設計法や匠の技を学ぶための大切な環境を提供してくれました。
その環境は、私に日本建築の伝統を受け継ぐうえで大切な”約束事”に対する興味を持ち続けさせてくれています。
彼らは、代々親方かから受け継ぐ手法=”技”を習得するため幼いことから修行に励み、その過程で数々の約束事を学びます。
その約束事の一つは、継手・仕口を使う技のような物理的なもの、もう一つは親方に対する礼儀や、
日本人として必要な美意識などの、精神的なものであると考えられます。
これらの約束事を私たち設計者が重視し、自分たちの設計理念を通して共有しつつ表現する意味として、私たちは”かた”という言葉に置き換えています。
われわれ設計者にも様々な表現をするものがいるように、職人もその表現のしかたにはそれぞれ違いがあります。
洗練された”かた”をもつ職人たちには、それなりの共通した意識があり、その質とレベルによって彼らの価値が変化すると思います。
私は過去の出会いの中で、より洗練された職人とコラボレーションすることで、ある種のかたちを生み出そうとしてきました。
日本人の美意識を空間として表現するとき、彼ら職人たちの鋭い技の世界が、その美意識に付加され一体となって、初めて伝統建築に蘇るのです。
私たちはこうした考え方をより理想的に具体化できないものかと試みに試みを重ね、
職人たちが後世によりよいものを残せる方法として、直営工事の方式をとることにしました。
直営工事方式は、建主、設計者、そして職人集団が同一レベルで一体となり、かたちを造ることを基本とします。
この「花晨居」では、過去18年出会いの神髄に迫り、採光に質の仕事を職人集団とともに成し遂げることができたと思っています。
撮影:相原功
敷地の南側には梅林があり、とても静かな場所として選ばれました。
花晨居の名には梅園のなかでの出会いを大切にし、その心のつながりを守り、豊かな気持ちでふれあうことができる場所に、という願いがこもっています。
設計には3年の歳月を費やし、その間に建主の深い真心を知り、花の心を知ることができました。
工期4年間、現場打合せをしながら、その建主の心をそれぞれの”かたち”にできたと思っています。